「役不足」という言葉があります。
本来の意味は「本人の能力に対して役目が軽すぎる」という意味ですが、実際には「自分には荷が重い」という意味で使われることもかなり多いです。
テレビで一時期、「役不足は誤用されやすい言葉です」みたいな話をよくやっていましたね。
でもこれ、今後は生成AIによってまた本来の意味に戻っていく可能性があるんじゃないかと思いました。
AIという絶対的な先生
たとえば誰かが文章を書いていて「この仕事は私には役不足で……」とAIに添削を頼んだとします。
するとAIはかなりの確率で、「『役不足』は本来、本人の能力に対して役目が軽すぎるという意味です。この場合は『力不足』などが適切です」と直すと思います。
これまでもテレビや本で同じような訂正ってされていました。
ただ、それって自分から見に行かないといけなくて、テレビが生活から遠ざかっている現在、身近な訂正力ってわけでもなくなってるんですよね。
AIはそうじゃなくて、今の段階でもメール文章をAIで作る際に間違っている部分を添削したり、本文中で語彙が間違っている部分を横訂正してきます。
しかもそれが一人や二人ではなく、何千万人に対して毎日行われます。
そうなると、これまでなら「みんなが間違った意味で使い続けて、そのうち意味が変わる」という方向に進んでいた言葉が、AIによって途中で押し戻されることもあるんじゃないでしょうか。
言葉はもともと、使う人が増えれば変わっていくものです。
どれだけ辞書に「これは本来こういう意味です」と書いてあっても、世の中の大半が別の意味で使うようになれば、いずれ辞書のほうが変わります。
でも生成AIが普及すると、その間に絶対的な国語教師が入ります。
「ちなみにその使い方は本来とは違いますよ」と、何度でも教えてきます。
そう考えると、生成AIは人間の言葉を学ぶだけの存在ではなく、逆に人間の言葉を作る側にもなっていくのかもしれません。
ただ、ここで少し怖いのが、「正しい言葉」と「実際に使われている言葉」は必ずしも同じではないこと。
たとえば「権原者」は普通に読めば「けんげんしゃ」ですが、業界によっては「権限」と聞き間違えないように、わざと「けんばらしゃ」と呼ぶことがあります。
辞書だけを見れば間違いです。
でも、その業界ではちゃんと意味が通じます。
こういう言葉をAIが全部、「その読み方は誤りです」と訂正し始めたら、それはそれで少し違います。
方言や業界用語、ネットスラング、若者言葉も似たようなもの。
言葉は間違いながら変わっていくものでもあります。
生成AIがその途中に入り続けることで、日本語が今までより変わりにくくなることもあるのかなあと。
AIが作る言葉
以前見た動画で、生成AIが実在しない漢字の熟語を作り、それがAI生成のWebサイトに載り、検索すると「存在する言葉」のように見えてしまうという話がありました。
つまりAIは、昔の言葉を保存する方向にも働くし、新しい言葉を勝手に作る方向にも働きます。
人間の誤用をAIが直し、AIの誤用を人間が覚える。
この先、日本語がどう変わっていくのかはちょっと面白いです。
何十年後かには、「これは人間が作った言葉なのか、それとも最初にAIが作った言葉なのか」みたいなことを調べる言語学者もいるのかもしれません。


